唯一、良かったと思う点はケリーの恋心で、ベンに気があるような素振りは全てベンの勘違いであり、教養にあふれ知的で活動的なケリーだって、恋する相手はスポーツ万能のイケメン生徒会長でした、というのは「そうくるか」と思いました。
ベンの回想という形をとっている以上、初恋の相手であるケリーが(憧れのありえないくらい幻想的な少女として)美化されているのは小説のトリックとして意識していたつもりでしたが、本当はあまりにも普通のティーンエイジャーだったことが最後の最後で読者に突きつけられるのは面白いですね。
それまでの行動も、ベンの一人称のためにケリーが大人びた美しさを持つ女性のように感じてしまうのですが、よくよく思い返してみると、思いつきで行動してしまう若き日にありがちなことばかりをケリーも多くやってしまっているんですよね。
人物の性格造形についての叙述トリックとでも言うべき手法については楽しませてもらいました。
一方、ミステリの謎解きはどうかといいますと、まぁ「なるほど」とは思うのですが、それ以上ではありません。
謎としての難しさや論理の繋がりはそれなりなのですが、それが文学的な深みや心理的な慟哭としてはあまり響いてこないのです。
結論
ミステリのトリックに驚くというよりは、初心な少年の美少女に対する初恋の過程を楽しむという方の面白さが優先されている作品です。
舞台が1960年代のアメリカ南部であり、デートの仕方もスクールカーストも現代日本とは大きく異なっておりますから、物語自体はベタな青春ミステリであると覚悟しつつ、そういった場所と時間の差異に楽しみを抱くつもりで手に取ってみるといいかもしれません。
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